蒼夏の螺旋 “大きな手。”
 



昨夜。ついうっかりと、火傷した。
買ったばかりのフライパン。本格仕様の鋳物ので。
一緒に買いに行ったお隣りの小野寺さんの奥さんからも、

『いい? 取っ手は絶対に素手で触ったらダメよ?』

ちゃんとそう言われていたのにな。
持ち手としてのコーティングとか、してないからって。
慣れるまでは手袋タイプの鍋つかみを、したままでいなさいと。
そうと言われていたのにな。
他の鍋もかけたんでついつい面倒で、
お玉でおみそ汁を掻き混ぜるのにって外したそのまんま。
ショーガのスライスを乗っけて蒸し焼きにしてた、
あまからの味つけのまま、ふんわりジューシィに焼き上がった鷄の腿肉へ、
うっとりしてた気分が、いきなりの熱さであっさり吹っ飛んじゃった。

『ルフィ?』

声出す暇さえないくらい、大慌てで流しへ直行したそのついで。
足元にあった、空になったペットボトルを派手に蹴り倒したもんだから。
居間でソファーに座りかけてたゾロが、そのままキッチンまで来てくれて。

『な…っ。』

きっと俺、べしょべしょって眉毛下げて、
情けないお顔で“にゃ〜ん”って泣きそうになってたんだろな。
蛇口の下で手を広げてたら、
大慌てで駆け寄ったゾロも、ペットボトル、蹴っ飛ばしてた。

『真っ赤じゃないか。…真っ直ぐってことは、レンジ台に手ぇついたのか?』

違うのと首を振り、

『でも、あのね? チキンは無事だった。』
『る〜ふぃ〜〜〜。』

何だよ、フライパンごと放り投げたりしなかったんだ。
ちゃんと火も止めたから焦げてもない。
褒めてくれてもいいじゃんかって言ったら、

『それがルフィの大好物でも。
 俺のために頑張って作ってくれたもんであっても。
 ルフィにこんな痛い想いさせたものを喜べると思うか?』

ざあざあ流してたお水の下から手を離したら、肌がすうって乾いてって、
そのまま ひりひり止まらない痛さが襲って来た。
そうなるってなんで、ゾロに判ったんだろって不思議だったけど、
昔、ゾロもこういう火傷、したことがあったんだって。
古い型の丸いストーブの天板の上に、うっかりと取っ手を上げていて、
退かそうとしてそれを掴んだら、しっかり炙られてて凄んごい熱くって。
1週間もの長いこと、剣道の竹刀が握れなかったのが口惜しかったんだって。

お医者に行こうって言うの、
大丈夫だからって説き伏せるのに30分も掛かっちゃった。
事情が通じてる岸本センセイのトコにって言われたんだけども。
きっと処置は同じだと思う。
清潔にしてとにかく冷やすこと。
痛いのがあまりに止まらないなら、鎮痛剤とか貰えたかもしれないけれど、
あんまりお医者にはかかりたくなくって、それで。
ケーキ買ったときについてたのを取っといた保冷材を、ガーゼのハンカチで包んで。
それを握って何とか蛇口からは離れられたから。

『お腹空いた。』
『ルフィ。』
『ご飯、食べたい。』
『………。』

こういう時は、駄々こねるに限る。
俺って悪い奥さんだな、うん。
心配されてんのに、そんな我儘押し通してサ。
しょうがないなって根負けしたゾロだったけど、

『…え?』

料理を並べるのも、お味噌汁をつぎ分けるのも、
炊飯ジャーを乗っけたワゴンをテーブルまで押して来たのも、
全部ゾロがやってくれての、その上。
向かい合って座ってるテーブル、
なのに、ゾロは自分の椅子をこっちへ持って来た。
そいで…

『ほれ。』

ご飯をよそったのはゾロの大きいお茶碗にだけ。
なんで?って思ったけれど、
お箸を持とうとした手が塞がってるのに、その時やっと気がついた。

『…あ。』
『痛くてフォークだって持てやしないだろう?』

そうだ、これじゃあ何にも握れないんだ。
ガーゼ巻いた手のひら眺めて“あ〜あ”ってやっぱり眉を下げてたら、

『ほ〜ら、あ〜ん。』

お箸の先、丁寧に掬い上げたご飯、口元まで持って来てくれたゾロだったけど。


  『……………ゾロ。今、何てった?』





*  *  *


そいで。
それからのずっと、ゾロが何もかも全部やってくれたんだvv
ゆっくりご飯食べてから、食器は食器洗い機に並べて入れて。
お風呂にも入れてくれたし。あ、うん。それは俺を、だぞ?
さすがにトイレは自分で済ましたけど、出たらすぐのとこにゾロがいて、
パジャマのズボン、ちゃんと上げたかって訊くの。
手伝いたかったのかな。
でも…何をどうやってかなぁ?
(こらこら)

そいでさ、そいでさ。
痛いようって言わないように頑張って、
保冷材を握ったままで何とか寝て。
(胸に冷たいのが当たって、ゾロはなかなか寝られなかったて言ってたけど。)
朝になって、水ぶくれが出来るほどじゃなかったのを確かめて、
痛いけど、でも
お医者には行かないからねって重ねて言ったら、ゾロも諦めてくれて。
ただ、

『2、3日は痛むだろうな。』

そうと言ってから、

『いいか? 今日までは俺、出社しなきゃなんない。』

うん。連休中だけど、ゾロは例によって結構大きいイベントを任されてる。
会場の担当じゃあないけれど、何かあった時のケア担当、
携帯だけじゃあおっつかないからって社の方で連絡を待たなきゃならないんだって。

『洗濯物は小物だけ洗濯機へ入れといたから、
 無理はしないでボチボチと干すんだ。
 シーツとかパジャマとか、大物は明日洗おうな。』
『うん。』
『掃除機もかけなくていい。散らかったなら、帰ってから俺がやる。』
『うん。』

ゾロの手元からは小気味のいい音。
しゃく・しゃく・しゃく・しゃく。
朝ご飯が済んだばっかなのに、もう流しに立ってってお米を洗ってて、

『これは晩飯の分な。』
『うん。』

手のひらが使えないから、ホント、何にも出来やしない。
顔だって、ゾロがおしぼりで拭いてくれたし、お米だって洗えない。
でも、外食するにも連休中だからどこも混んでるだろし、
コンビニのお弁当って発想も沸かなかったゾロだったみたいで。
昨夜も、朝の分を洗ってくれたんだぞ? すごいだろ〜vv
いやに多かったから“???”って思ってたら、
今朝食べたらすぐにも、残りでおむすび作ってくれた。

  ――― やっぱ、大きな手だよなぁ。

炊飯器から直接、シャモジでよそって取ったご飯。
もうそんな熱いはずなかっただろに、
あちあちって大騒ぎしながら、それでも何とか落とさずに。
ぎゅっぎゅって揉んで、2回ほど手首返して、もう出来上がり。
え〜〜〜って思ったけど、じゃあ喰ってみなって鼻先に差し出されて。
ずぼらな出来かと思っていたのに、そしたら凄んごい美味かった。
ご飯粒は潰れてもないし、堅すぎてもなくて、
パクッて齧った分だけが口の中でほろほろってほどけて。
お塩の加減もちょうど良くってサ。
ご飯済んだばっかりだったのに、大きめの、全部食べちゃって。

『あ、こら。////////

そのまま、ゾロの手のひらまで舐めちゃったvv
う〜〜〜、まだ11時半かぁ。
お昼まで我慢しないといけないよな、やっぱ。
でもさ、お海苔が湿けって へちょってなってるのが何とも色っぽいvv
まるで“よーいどん”を待ってるみたいに、テーブルに早々と着いてて、
まだかなまだかな、12時になるのを待ってたりする。
明後日の誕生日にはどっかに連れてってくれるみたいだけど、
俺としては、このおにぎりの方が嬉しいなvv
あ、ゾロには内緒だかんな? いいな?



  とりあえず、

   HAPPY BAIRTHDAY! TO LUFFY!




   〜Fine〜  07.5.05.


  *もちょっと いちゃつかせたかったですが、
   怪我人が相手ですんで、まま、こんなもんでしょうかねと。
   今年のお話は、どれも何だか妙なのばっかですかしら。
(う〜ん)

  *おむすびの描写は、別のお部屋でちょろちょろ書いてるせいでしょか、
   妙に楽しゅうございましたvv
   それに私自身が大好きですしネvv
   これで結構、三角おにぎりには自信もありますしvv
   いいお海苔といいお塩があれば、ついつい握りたくなります。
   普段はあんまり進んで食べない梅干しも、
   入れちゃえってノリノリになっちゃいますvv

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